FX侍です、こんにちは。
1ヶ月かけて積み上げたものが、最後の2日で全部ひっくり返される。
2026年7月のドル円は、そういう月でした。
月初は162円台半ば。そこからじりじりと買い上げられて、7月23日には163.9円台。
ところが月末の2日で157円台まで叩き落とされて7月を終えています。
7月のドル円は2つの顔がありました。
・ドル円上昇の理由が積み上がり続けた流れ
・日米協調介入による円安是正の流れ
現時点では後者の方が強力ですが、介入で前者がキレイサッパリ解消された訳じゃない点は要注意です。
7月前半:弱い雇用統計でも円高になりきらなかった
最初の山場は7月2日。
この日、ドル円は162円台半ばから一時160.62円まで急落しています。
下げは二段構えでした。
まず15時45分ごろ、162.20円付近から一気に161.10円まで売られます。
犯人は1人ではありません。
◆15:45の下げを作った材料
・財務省が予告なしの「不意打ち」型介入に切り替えるかも、という観測報道
・麻生副総裁の「およそ40年ぶりの円安水準も気になる」発言
・韓国の財政経済次官によるウォン安への言及(日本など周辺国と緊密に連絡、とも)
ドル円の話に韓国の当局者が出てくるとは思いませんでした笑
そして21時30分、本番の米雇用統計。
非農業部門雇用者数は5.7万人増と、予想の11.3万人を大幅に下回る結果。
4月・5月分も合わせて7.4万人の下方修正です。
ちなみに失業率は改善していますが、労働参加率が下がっている(2021年3月以来の低さ)ので、実態として労働環境が改善されている訳じゃありませんね。
ここからが7月の性格を決めた部分と言えるでしょう。
これだけ弱い雇用統計が出て、ドル安+利上げ織り込みも低下したにも関わらず、ドル円は161円台から下に抜けられませんでした。
7月中盤:戦争が激化しても、なぜドル円は動かなかったのか?
7月中盤は、ニュースの見出しと値動きのズレが開いた時期でした。
12日、米軍がイランへの新たな攻撃を開始し、約140カ所を攻撃したと発表。
イラン革命防衛隊はホルムズ海峡の封鎖を表明します。
原油はグングン上昇して行きましたが、ドル円はレンジでモミモミ…
▼ドル円+ブレント原油1時間足(クリックで拡大します)
(上段:ドル円1時間足、下段:ブレント原油1時間足)
地政学リスクで原油が上昇する傍ら、ドル円は我関せずのこう着状態。
ニュースと値動きのズレが合わなかった時期でしたね。
ドル円は反応しなかった理由は、円の事情でした。
この時期、海外の機関投資家の間ではこういう見方が出ていたんです。
円は経済の条件から見れば割安
↓
でも日本政府と日銀が円安是正に向けて具体的に動くまでは買いにくい
↓
だから割安のまま放置される
割安なら買われる、金利差が縮まれば円高と教科書には書いてあっても、実際は「で、誰がいま買うの?」と言う状況。
通貨安を止める気がない(という海外の評価)円を買って損したくありませんからね。
歴史的安値でも買われぬ円 米国投資家「通貨防衛の姿勢見えず」https://t.co/I4vrLAl0SL
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) July 20, 2026
買い手が手をこまねいている間、売り手だけは動けます。
原油高も金利差も円を売る材料として揃っていましたからね。
この時期のドル円の膠着中に、円売りが溜まっていった訳ですね。
もう1つ、見落とされていたズレがあります。
7月中旬に出た米CPIもPPIも予想より弱い数字でしたが、どちらも6月のエネルギー価格下落が効いた結果。
CPIのエネルギーは前月比5.7%下落。
PPIも6月のガソリン12%下落が大きく響いた数字。
しかしその数字が発表された7月中旬の時点で、WTI原油はすでに80ドル前後まで戻っていました。
弱い物価統計が映していたのは1ヶ月前の安いエネルギーで、足元の原油はもう逆を向いていたって訳。
つまり、次の物価統計が同様に下がるとは思えないのは誰の目にも明らかでした。
・円の買い手が待たされ続けたこと
・原油が既に上昇していたこと
この2つが7月後半から月末にかけてのポイントになります。
7月後半:原油100ドルが「円を売る理由」になった
そして予想どおり、膠着を破ったのは原油でした。
7月23日、紅海でサウジの石油タンカーが攻撃されます。
ここでフーシ派が絡んできたのが、7月の戦況をややこしくしました。
北海ブレント一時100ドル、約2カ月ぶり高値 フーシ派の船舶攻撃で https://t.co/YKv2jw5WMs https://t.co/YKv2jw5WMs
— ロイター (@ReutersJapan) July 23, 2026
ホルムズ海峡だけでなく、紅海まで封鎖されるといよいよ原油の通り道が危機的状況に追い込まれます。
しかもトランプが「再び船を攻撃すればイランとフーシ派に大規模な軍事的処罰だ!」と警告。
停戦ムードが吹き飛ぶ方向に相場は反応。
▼ドル円+ブレント原油1時間足(クリックで拡大します)
(上段:ドル円1時間足、下段:ブレント原油1時間足)
ブレント原油は一時102ドル、終値でも100.69ドルと言う急騰。
ここで原油高が、2つの側面から円安に効いてきます。
◆原油100ドルがドル円を押し上げた道筋
・米国:インフレ再燃を意識 → 米金利上昇(10年債4.69%)
・日本:輸入代金の増加で交易条件が悪化 → 円を買いにくい
同じ日、米新規失業保険申請件数は18.7万件と1969年以来の低水準。
インフレの心配をしている日に、雇用の方が劇的な改善してれば、FRBが慌てて緩和に動く理由がありません。
その結果、ドル円はNY時間に163.9円台まで上昇しました。
ちなみにこの日、日本の2年国債利回りも31年ぶりの高水準まで上がっています。
普通なら「日本の金利が上がったんだから円高でしょ?」となりますが、円は買われませんでした。
金利差はまだ大きく開いたまま。
しかも原油高が円安の追い風になっている。
この状況で日本の金利が少し上がったくらいでは、焼け石に水だったわけですね。
月末の急落:たった2日で6円の下落
7月30日からドル円への介入が始まります。
政府・日銀による円買い介入と、ニューヨーク連銀のレートチェック。
ぶっちゃけこの介入は、サプライズ介入として効果的でしたね。
・翌日に日銀会合を控えていたタイミング
・前回みたいに「最終退避勧告だ!(キリッ)」みたいな警告がなかった
・このドル高+円安が止まらない地合いでの介入なんて意味ないっしょ?という楽観ムード
これらが噛み合った介入だと個人的に勝手に評価しています笑
(介入の規模は、日銀が公表した当座預金の増減データをもとに6.4兆〜9.6兆円規模と推計されてます)
そして前日のFOMCの流れを見逃さなかった点も大きいですね。
FRBは政策金利を3.50〜3.75%に据え置いたものの、3人が利上げを求める採決となり、ウォーシュ議長の会見は債券市場の信任を得られず、声明後にはドル円もドル指数も下げています。
「ウォーシュ体制、大丈夫か?」というドル買いの緩みを利用したのが効き目を高めたでしょうね。
しかも繰り返しになりますが、翌日に日銀会見を控えている日に「まさか介入はないだろう」って隙をつけたのもポイントでしょう。
翌31日の日銀は「据え置き」なのに、なぜタカ派と受け取られたのか?
介入の翌日、7月31日は日銀の金融政策決定会合。
無担保コールレートを1.0%程度で据え置きは予想どおりだったものの、中身がそうではありませんでした。
◆7月会合の中身
・採決は賛成8・反対1
・展望レポートの物価見通しは2026年度が下振れ(政府のエネルギー負担緩和策の効果)
・それでもリスクバランスは「上振れリスクの方が大きい」と明記
物価見通しが下振れたのは、電気・ガス代への補助金という一時的な要因で、日銀から見ればその効果を外せば物価の圧力はまだ残っている。
実際、展望レポートは基調的な物価上昇率について「2%の物価安定の目標を超えて上振れていくリスクがある」と書いています。
見通しの数字は補助金で下げたけどリスク評価は上振れた→据え置きなのに中身はタカ派と言うわけです。
で、その後は日米での協調介入で今に至ると。
ドル円、昨日の流れをチャートに
✅️三村「米当局から精神的支援を超える支援」
✅️ベッセント「ToDoリスト: 円を50億~100億ドル買う」
✅️米当局、ドル円、ユーロ円で介入。約30年ぶり日米協調介入日経やFT、ロイターの記事だと、深夜2時すぎのがNY連銀の介入で、その他は日銀でしょうか https://t.co/JIBi1EC3xD pic.twitter.com/5QA89wcMTL
— 高城泰|FXコレクティブ (@takagifx) August 1, 2026
8月3日の公式発表:米国はドルではなく、ユーロを売っていた
そして今朝、財務省が日米協調の円買い介入を公式に発表。
米国東部時間7月31日に米国財務省と協調して実施し、2025年9月の日米財務大臣共同声明に基づく対応だとしています。
ここで意外だったのが、アメリカが売った通貨の方です。
◆今回の役割分担
・日本側:ドルを売って、円を買う
・米国側:ユーロを売って、円を買う
なぜユーロを売る?と疑問に思った方も多いですよね。
それはアメリカ財務省の影響力の大きさ故です。
米財務省がドル安を容認する発言や行動をすると、市場が一時的な調整ではなく「米国の為替政策が変わった」と受け取り、ドル売りが止まりにくくなった事例があるからです。
実は過去にアメリカはそれで痛い目を見てるんです。
◆1985年プラザ合意
米国、日本、西ドイツなどG5がドル以外の通貨が上昇することが望ましいと表明
→市場がアメリカはドル安にしたいと受け取り、2年間で約42%のドル安・円高が進む
→ドル安是正のために1987年2月にルーブル合意が結ばれるが20%のドル安が進む
◆1993年米財務省長官の発言
ベンツェン米財務長官が「もっと強い円を見たい」と発言
→市場はクリントン政権が円高・ドル安を望んでいると受け取る
→発言後、円は約2週間で6%以上上昇し、その後2年ほどドル安円高が続く
→アメリカがドル買い介入してもドル安が止まらなかった
要するに、アメリカ財務省はその言動によって、ドルへの風向きを意図せず変えてしまう影響力があるんです。
金融市場でトランプが影響力を持っていると言っても、やっぱり財務省には敵いません。
だからドルへの影響力が最も少ない「ユーロ売り」で介入したとの推測です。
見逃せないFIMAレポへの言及
先ほどの財務省の発表文には、こんな一文も入っていました。
我々は、今後、更なる協調介入を実施することも躊躇しません。
また、日本は将来的に、米国連邦準備制度の「外国・国際通貨当局向けレポ・ファシリティ」(FIMA Repo Facility)の活用を予定しています。
このFIMAレポは、海外の通貨当局が持っている米国債を担保に一時的なドル資金を借りられる仕組みのこと。
円買い介入用のドル調達手段として、米国債を売らなくてもOKって意味です。
円安を止めにいったら米国の金利が上昇した、ではアメリカが協力する意味がありません。
米国債を売らずにドルを用意できる道があれば、日本は弾を撃ち続けられます。
当局にしては珍しくずいぶん準備がいいなと思いました笑
8月のドル円で見ておきたい3つのポイント
まず1つ目は…15.3万枚の円ショートの行方。
積み上がった円ショートの減り具合が、次週のCOTで確認できます。
偏りがまだ残っているなら、次に実弾介入があった時の振れ幅も大きいでしょう。
逆に大幅に解消されていれば、日米の本気度が市場に伝わったと思われます。
今までのような円売り一辺倒じゃなくなる可能性が出てきますね。
2つ目は…日銀の次の一手。
金利スワップ市場が織り込む利上げ確率は、9月会合が31%、10月会合が50%、12月会合が28%。
年内あと3回のうち、10月会合での利上げが最も高く見られています。
先日のタカ派据え置き会合が本気かどうか、8月10日公表予定の「主な意見」に注目が集まるでしょう。
3つ目は…原油と中東情勢。
米軍のイラン攻撃は7月下旬に一時休止していますが、停戦が決まったわけではありません。
ホルムズ海峡も紅海も、状況は変わっていない。
イラン側はトランプの中間選挙まで、支持率を低下させるため原油高を引っ張ると目されています。
介入で作った余地を原油価格が埋めてしまうのか、読めない中東情勢もポイントになるでしょう。
まとめ:7月のドル円が教えてくれたこと
2026年7月のドル円は「材料が積み上がった1ヶ月と、一気にひっくり返した2日間」と言う印象です。
・まさかこのタイミングで介入が来るとは思わなかった
・まさか本当に日米で協調介入するとは思わなかった
と言う2つのまさかが重なった、濃密な月末の動きでした。
介入がいつ来るかは誰にも分かりませんが、丸腰で待つしかないわけでもありません。
「どっち側に人が乗りすぎているか」は、毎週数字で出ています。
7月21日時点の建玉が公表されたのは、7月25日。
介入の5日前です。
この時点で機関投資家の円ショートは-79,906枚で52週レンジの1%。
つまり過去1年でほぼ最も厚いところまで来ていました。
しかも7月に入って4週連続で厚みを増している最中。
ここまで片側に寄った相場では、きっかけが介入だろうと要人発言だろうと、逆へ動いたときの値幅が大きくなります。
つまり「何で動くか」は当てられなくても、「動いたら大きい」は事前に分かっていたわけです。
163円で円を売る側に回るなら、そこにはもう過去1年で最大級の人数が乗っている。
それを知って乗るのと、知らずに乗るのとでは、ロットも損切り幅も変わってきますよね。
エントリーする前に、自分が乗ろうとしている側へ、今どれだけ人が乗っているかを確かめてみてください。
それを毎週の実数で確認できるのが、COTレポートです。
円ショートが今どこまで解消されたかも、ここで見られますよ。
ちなみに「節目で頭を抑えられる相場」の話は、6月の振り返りでも書いています。
あわせて読むと、7月の163円がどこから来たのかが見えてきますよ。
より詳しい日々のドル円の値動きや相場観は、noteでリアルタイムに発信しています。気になる方はそちらものぞいてみてくださいね(・∀・)
来月もまた、ドル円の1ヶ月を振り返ります。


































この記事へのコメントはありません。